先に、一点を決める
情報は、もう共有物になった。事実を集めるだけなら誰にでもできるし、AIも同じものを持っている。だから、たくさん調べること自体は、もう差にならない。差が出るのは、その事実をどう畳んで、何を真ん中に置くか。プロジェクトのいちばん最初に、その一点を決めておく。それが、いちばん効く仕事だと思う。
事実より、何を一点に据えるか
ある案件を始めるとき、事実のほとんどは、もう机の上に出ている。打ち合わせの記録も、資料も、だいたい出尽くしている。そこは、自分とAIとで大きな差はない。差がつくのは、その同じ事実を、どう一点にまとめるかのほうだ。この案件が、根っこでは何なのか。ずらしてはいけない一本の軸を、先に決める。背骨、と呼んでもいい。背骨は、事実から自動的に出てくるものではない。何を大事にするかという、賭けに近い決めごとだ。そして一度決めたら、あとはすべてそこに照らす。この判断は背骨に合っているか、と。
速いほど、背骨がいる
作るのが速くなると、先に軸を決めるより、まず手を動かして直せばいい、と思いたくなる。でも、実際は逆だと感じる。速く、いくつも出せるようになるほど、真ん中がないと、出てきたものはばらけていく。それぞれは悪くないのに、全体としては、どこかで見た平均へ散っていく。たくさんあるのに、一つになっていない。先に背骨を決めておくと、量産しても、全部を同じ一点に照らせる。だから、速く出したものが、ばらばらの山ではなく、一つのものとして積み上がる。速さは、背骨をいらなくするのではなく、いっそう必要にする。速く作れるほど、何を中心に作るのかを、早く決めておいたほうがいい。
先に決めた一点は、動きを縛るためのものではない。むしろ、自分を見失わずに速く進むための、帰る場所になる。ここだけは動かさない、と早めに決めてしまえば、あとは軽く、速く、大胆に試せる。戻る先があるからだ。事実が共有物になり、作ることが安くなるほど、希少で決定的なのは、真ん中に何を据えるかを選ぶことのほうになる。そしてその一点は、たぶん、独自性と本質がいちばん濃く重なる場所でもある。